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■愛知学院大学 経営学部 専任講師 島本 実
■プロフィール
1969年、生まれ
一橋大学社会学部卒業、同大学院商学研究科修士課程、同博士課程修了
一橋大学博士(商学)
1999年より愛知学院大学 経営学部 専任講師(現職)
研究テーマは技術政策論、産官学プロジェクト論
主な論文は「革新官僚の台頭」『ビジネスレビュー』第45巻第4号、「YS-11プロジェクトの組織デザイン」『一橋論叢』第121巻第5号など |
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■天才柳沢教授が悩むとき
モーニングに連載されているマンガに『天才柳沢教授の生活』という作品があります。この中に柳沢良則という大学教授が登場するのですが、この柳沢教授、カタブツで何より経済学の原則に忠実。教授自身はごく普通に生活しているつもりなのですが、そのことが教授の意思とは関係なくまわりの人を暖かくします。この漫画の鍵となっている教授の思考の基礎にある経済学のセンスを、みなさんに試してもらう問題があります。さて、みなさんの「柳沢教授」度はいかがなものでしょうか。
あなたと私と二人がいて、ここに1000円があります。これを二人で分けあうことにしましょう。あなたはこの1000円のうち何百円でも自分の取り分を決められますが、しかし私が「それでいい」といわない限りお金は誰の手にも入りません。すなわち私が、私の取り分が少ないので、その提示では「いやだ」と言ったときには、二人とも取り分は0円ということになります。おそらくこの場合、あなたは私が満足するような取り分を提示して、イエスと言ってもらいたいと考えるでしょう。ここで問題です。あなたは私にいくらを提示しますか。ちょっと目を閉じて考えてみてください。
500円あげると答えたあなた、いい人ですね。あなたに500円あげるかわりに私にも500円ちょうだいという発想で、1000円を半分づつにして円満解決。でも、あなたが優先的に好きな額を決められるのですから、あなたがたとえ600円取っても、私も400円もらえるのですから、私にとっても得なはずではありませんか。
200円とか、300円あげると答えたあなた、考えましたね。自分が額を決められるのですから、自分の取り分が多くてもいいはずだという発想ですね。でも、あなたの高飛車な態度に腹を立てた私がノーと言ったらどうします。二人ともパーですよ。じゃあ、どうしたらよいのでしょう。
実は、この問題は実験経済学で有名なものの一つです。以前研究会でこの問題が出されたときに、席におられた経済学の先生方はそろって即座に答えられました。「1円。」そうなのです。ここで1円と答えたあなた。あなたは経済学のセンス抜群です。なぜでしょう。あなたが999円取っても、私にとっては0円よりは1円の方がまし。そこで私は経済合理性に従うならば必ずイエスと言うはずなのです。それでも実際には、「1円やるからイエスと言え」といわれれば、多くの人は怒りますよね。しかし、これは経済合理性だけから考えればおかしなことなのです。
しかしながら、もし柳沢教授ならば「1円」と頭でわかっていても、ここで非常に悩むのではないでしょうか。経済学が想定している世界では、誰もが1円と言い、それで相手は納得するはずなのです。しかし現実的には、多くの人は、社会や組織の中で、他者のふるまいを予測して行動するために、1円とは言えず、言われれば怒るのです。柳沢教授は、しばしば経済学は「人間の学」だと言います。教授も、経済合理性だけでは割り切れない人間の不思議さを興味の対象としているのでしょう。この作品の暖かい魅力は、まさにこの点にあります。
経営学もまた「人間の学」、それも、いろいろな個性ある人々が織りなす企業組織が研究の対象です。みなさんも、身のまわりの組織や人間の不思議さにあらためて驚いたり、経営学の理論を手がかりに自分自身でもう一段深く考えてみることを、面白そうだと思いませんか。悩まず「当然、1円さ」と答えられたセンス抜群の方は経済学へどうぞ。答えられなかった方は、経営学にようこそ。
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