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■一橋大学イノベーション研究センターセンター長・教授 米倉 誠一郎氏
■プロフィール
米倉 誠一郎(よねくら せいいちろう) 1953年生まれ。一橋大学大学院社会学研究家歴史学専攻修士課程修了。ハーバード大学Ph.D(歴史学)。一橋大学商学部教授を経て現職。企業経営の歴史的発展プロセス、とくにイノベーションを中心として経営戦略と組識の史的研究を主たる関心領域とする。全米でもっともイノベーティブなエグゼクティブ教育プログラムといわれるミシガン大学グローバル・リーダーシップ・プログラム、コア・ファカルティー・メンバーでもある。主な著書は『The Japanese Iron and Steel industry 1850-1990:Continuity and Discontinuity 』(MaCmillan1994)『経営革命の構造』(岩波新書1999)など。



イノベーションとは新しいコンビネーション、企業家がイノベーションを起こす


 イノベーションというと、とてつもなく難しいことだとか、自分にはできないとか、自分には関係ないとか思ってしまうかもしれません。しかし、イノベーションというのは、新しいコーディネーション、新しい組み合わせのことです。ですから、既存のものでもいいのです。 いろいろなものを新しく組み合わせる、ある意味では、視点の転換をするということ、同じものを違うふうに見ることが、「イノベーション」だと思います。技術であれば、同じ物を違うふうに使えるようにする、もしくは新しい世界をもたらすようにする、組織であれば、新しい力を引き出せる組織−新しい技術、新しいもの、新しい原材料、新しい組織形態、新しい市場− これらの自由な組み合わせをイノベーションというふうに捉えれば、イノベーションとは明らかに技術革新よりもはるかにひろいものです。


 最近、「企業家」という言葉に「起こす」という字をあてて、「起業家」と書く人が多いようですが、アントレプルヌール(entrepreneur)の翻訳とすると、ひじょうに意味を限定しすぎてしまっています。アントレプルヌールというのは結局、「イノベーションを遂行する人」です。それでは、イノベーションを遂行することというのは何かというと、新しい技術を持ってきたり、新しい作り方を持ってきたり、新しい市場を持ってきたり、新しい組織、新しい原材料などを持ってくること。 アントレプルヌールというのは、そういうものを持ってきて、今までの生産のあり方や社会の在り方を変える人ですから、別に新しい事業を起こさなくてもいいのです。会社の中にいてもできますし、学校にいてもできます。ですから、企業家、アントレプレナーがイノベーションを遂行する、そして、イノベーションとは何かというと、新しいコーディネーションのことだとわたしは思っています。これから日本のビジネスパースンも、イノベーターにならなくてはならないと思っています。そのためには、「失うものは何もない」と思うことでしょう。


 話は変わりますが、元大統領夫人のエレノア・ルーズベルトが言ったという話が友人から電子メールで送られてきました。 「ビューティフル・ヤング・ピープルは自然のアクシデントだが、ビューティフル・オールド・ピープルは “アート・オブ・エフォート”、つまり“努力の賜物”だ」というものです。また、そのメールの中に、「Yesterday is history, tomorrow is mystery, and today is gift. つまり、昨日はヒストリー(歴史)である、明日はミステリーである、そして今日はギフト(贈り物)である」と書いてありました。過去の成功体験はもうヒストリーですから、今日をきちっと、贈り物だと思って、明日のマジカル・ミステリー・ツアーに届けてやろうと、そういう気持ちが大切だと行っているのだと思います。人生はそれほど長くありませんが、それほど短くもありません。自分で自分の人生を設計するという力が必要ではないでしょうか。そういうことができる世の中になっていますから、昔の人に比べて我々は本当にラッキーです。 自分を鍛えて直して、設計し直して、自分を“reinvent(再発明)”して、もう一度新しいコンビネーションをやってみてはどうでしょうか。小さなことからも始められると思いますし、そういう気構えが重要だと思います。昨日の路線でただこのまま行くのではなく、もう一度自分を作り直すことが必要でしょう。



それから面白いと思ったことがあります。今、わたしが所属しているところは、昔は「イノベーション研究センター」になる前に、「産業経営研究所」という名前でした。「産業経営研究所」というのは、なんとか製作所みたいなもので、何でもやります、といった感じでした。ただ、「何でもやる」といったときは、あんまり問い合わせはありませんでした。ところが「イノベーションに特化する」といったとたんに、いろいろなところから問い合わせがきて、それで逆にいろいろなところと繋がることができました。これでわたしが思ったのは、やはり自分が「何か」持っていると、繋がれるということです。 イノベーションには何が必要かというと、その人にしかできない、その人の持っている強さ、そういうものを個人的に持っていると(「ポータブルな能力」という人もいますが)強いと思います。だからといって、一匹狼になればいいというわけではありません。いいものを持っていると、いろいろな人と繋がれるのです。 「自分はこれができる、自分はこれが好きだ」。それが、今のビジネスパースンには必要だと思います。

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