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適性テスト |
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採用選考などの際に、学力試験と心理テストを実施することが多い。上場会社の場合、その9割以上が何らかの適性テストを実施している。中でも代名詞となっている、リクルートのSPIはあまりに有名で、その利用率は7割以上ではないかと推測されている。ただし、SPIは単価が高く、対策本も多い。そこで、選考の前段階では別の適性テストを行い、絞り込んでからSPIを使うという使い方も以前から少なくなかった。
実は私もテスト業界の住人をやってきた。私はAGP行動科学分析研究所の所長を6年ほどやっており、そこの出しているCUBIC(キュービック)のマニュアル本の書き直しを手伝ったり、公開セミナーの講師をやっていた。CUBICの背景にある理論は、佐野勝男(慶應義塾大学名誉教授)のまとめたパーソナリティ理論であり、一般に気質論と言われるものである。人間の特質を、分裂気質、循環気質、粘着気質、ヒステリー、神経質の5つに分け、その組み合わせや強弱でパーソナリティが説明できるとするものである。
ただし、佐野氏は、CUBICの開発には一切関わっておらず、2年ほど前に座談会の際に、こういうものがありますよ、と話すと、そうですか、ということだった。私の大学院時代の指導教授は南隆男氏であり、その指導教授が佐野勝男氏である。CUBICの開発者の高根定信氏も佐野門下であるが、事業熱心な方で、大学院を中退して組織調査やコンサルティングで自営をされているみたいだ。
テスト事業者には独自の懇談会があり、お互いのテストを批判したり、セミナーで取り上げて比較しないという不文律があると聞いた。本当かどうかわからないが、多くのテスト事業者はSPIとの比較を必ず出している。
私は学会にもいくつか入っているが、そこでリクルートのテスト関係者の学会発表を聞くことができる。経営行動科学学会、人材育成学会、産業・組織心理学会などが手頃な学会であろう。そこで、開発の最前線にいる人の発表を聞くと、SPIにしても、重視している項目は身体活動性と外向性の2つであることがわかる。そのように発表をされていた。一方、CUBICにしても、読み取る際にはパーソナリティをつかむという読み方をするが、活躍度として見ているのは、身体性、内閉性(逆に言えば外向性)、競争性などで、2つないし4つ程度である。これらが一定の方向になっている時、活躍する可能性が高いというのである。つまり、SPIにしても、CUBICにしても、その他のテストにしても、基本原理はそんなに差がないことになる。したがって、公開セミナーなどでの紹介を丸呑みしてはならない。
とりわけ、大学関係者などの識者を使って権威付けしている例がたくさんあるが、インチキ臭い話も多い。あるテスト事業者は、慶應関係者の研究によってテストが開発されたとセミナーなどで紹介をしている。しかし、慶應の場合、後にも先にもパーソナリティの講座は佐野勝男氏しか持ったことがない。現在は置かれていない。心理学の分野は専ら基礎的な研究に徹しており、記憶や認知など研究している。文学部という性格もあり、営利事業に手を染めることは大学人としての倫理に反するという空気がある。私がコンサルティングで関わっている先からデータをもらおうとすると、そういうのをはしたないことと捉える風潮があった。その他の大学でもその雰囲気はあまり変わらないと思う。
そういう会社、つまり大学を使って権威づけしようとする会社は、学会の法人会員になっていたりするが、発表するわけでもなく、会費だけ払って宣伝に使っている。また企業も、そういう会社に騙され、ツールを衝動買いしてしまう。「最近はどんな学会発表をされているのですか」と質問されてみるといいだろう。学会で発表をしているテスト事業者は、私の知る限り、リクルート(頻繁)、NOMA総研(時々)、インタービジョン(時々)である。その他のテスト事業者の発表は過去10年間で見当たらない。
また他にも○○大学の教授が監修という触れ込みのテストがいくつもある。しかし、これを労政時報に紹介したら、そんなの関わっていないよってお叱りを受けたこともある。具体的な社名や人名は避けるが、大学で心理学専門の教授に営業や技術者の適性なんてイメージできないし、そんな研究発表をしたらほとんど評価されないのが現状なのである。大学での学問はいいか悪いかは別にして抽象度が高くて役に立たない。それで割り切っているのである。私は、人事コンサルタントの経験として、ある企業の実情を詳しく学会で紹介したことがある。院生は目を輝かせて聴いてくれたが、老教授は「君のような若僧の経験談なんて学問的な意味、何もないよ」と酷評された。学界人には実務に迎合しないという確固たる信念があるようだ。
ある大手企業の人事担当は、SPIのヘビーユーザーで、使っている項目は2つだけだと指摘している。それは情緒に関する項目で、気分性、独自性、敏感性の3つであったと記憶する。しかし、こういう使い方がいいのかは、私もわからない。ちなみに、この会社では鬱になってしまう人が多いそうだ。SPIには自責性という項目があるが、これは鬱になる可能性を予測すると考えられる。この会社の場合、責任感の強い人を求めているのか、自責性は高いほうがよいと考えているみたいだ。少なくとも、どのツールを使うにしても、描かれたプロフィールを確認するようなインタビューを行なうことが必要であろう。
最近、企業も神経質な人の採用に慎重になっている。確かに、神経質な人はトータルな意味での適応性が低いかもしれない。一般には対人感受性が高くてストレス耐性が低いタイプである。しかし、以前のコラムにも書いたが、タフさと対人感受性は両立しない。しかし、組織の中には対人感受性の高いタイプも必要なのではないだろうか。後半ではこのようなことについても若干所見を述べたい。
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1 |
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問題解決
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.94
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.04
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-.03
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-.27
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.06
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計画組織
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.81
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-.14
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-.34
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.11
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-.22
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管理統制
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.70
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-.12
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-.11
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-.14
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.09
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決断力
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.67
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.26
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.33
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-.11
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-.22
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要点把握
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.51
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-.13
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.18
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.30
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.17
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柔軟性
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-.38
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.13
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.02
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.27
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-.22
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問題分析
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.36
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-.24
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.07
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.19
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.26
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対人影響
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-.06
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.79
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-.19
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.23
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-.25
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コミュニケーション
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-.04
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.75
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.09
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-.38
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.05
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対人インパクト
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-.10
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.67
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.02
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-.04
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.04
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説得・対話
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.04
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.64
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-.13
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.25
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.33
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対人感受性
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-.02
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.31
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-.77
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-.05
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.23
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ストレス耐性
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-.35
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.02
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.63
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-.03
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.07
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能動性
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.24
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.26
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.44
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.40
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.05
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イニシアティブ
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-.26
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-.02
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.02
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.86
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-.04
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自律一貫性
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.05
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.05
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-.12
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-.03
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.87
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ラベル |
課題解決 |
対人影響 |
タフさ |
率先性 |
責務感 |
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営業や技術者によって、タフさを取るか、対人感受性を取るか、どちらがいいんですかと編集部から質問を受けた。その答えは次のようなものだと思う。先ず、両者がトレードオフの関係にあることを認識し、対人感受性が並み程度ならタフさを重視するとかした上で、タフさでは並み程度だが、対人感受性の高い人材にも内定を出してみることである。そういうタイプにも賭けてみてはどうだろうか。ただ、因子分析の結果から言えば、そういう採用基準はややマニアックになってくるので、自社で調査してその回答を得ることが必要である。具体的にはどうするのか。
先ず、27−30歳位など一定の階層を決め、ヒューマン・アセスメントを行なう。そこで得られたデータを多変量解析し、以上のような因子分析で、因子解を抽出することである。またクラスター分析を行なえば、自社で活躍している人材のタイプが明らかになる。例えば、4つないし5つの典型的なタイプが出てくる。共感性の高い親和型リーダーというのが出てきたことがある。そこから、採用選考基準を作るのである。またその基準は登用基準や評価基準にもなる。
アセスメントの結果を職種別に比較すると、職種ごとのハイパフォーマーの特性を把握することもできる。ある意味においてコンピテンシーで目指したものに近い結果が得られる。違いはハイパフォーマーを選抜して行なうのではなく、同一階層を集めて研修形式で行なうことであり、またインタビューではなく、アセスメント・センターで能力評価を行なうことである。
なお、因子の5にある責務感についても解説しておきたい。一般に責務感の欠如した人材の活躍可能性は低いものであると思われる。しかし、責務感の強すぎる人材は特定の仕事や顧客に労力を使い過ぎ、活躍度が期待できないという経験知がある。また責務感の強い人は自分を追い詰めて鬱になりやすい。そういう意味ではポジティブなだけではなく、危険因子である。
アセスメントにおける行動ディメンションが採用選考に使えることは既に解説した。また今回、実施する以上、面接でそれを裏付けるようなやり取りを行なうべきであることを示唆した。そうなってくると、採用選考全般を現状から再構築しなければならないという必要性が生じてくる。少なくとも、非常に限られた時間の中で、何を評価するのかを明確に意識した面談が実施されていければならない。
また企業は学力試験を偏重した採用基準を置いている。確かに、企業が求めているのは高校卒業時点における学力面での到達度の高い人を求めており、そういう人は長い目で見て活躍してくれると信じている。しかし、本当にそうだろうか。疑問がある。学力は必要条件だが、十分条件ではないし、どの程度で下限を設定すればいいかは自社なりに設定すればよいことだろう。
ある企業ではコスト削減のため、適性テストを撤廃した。その結果、時々であるが、国語力が顕著に低い社員が入社してくるようになったようだ。どことなく言葉遣いがおかしい。また漢字が読めない。そのため、業務に支障が出てくる。最初は冗談を言っているのかと思ったそうだ。
私の身近な人にも数人だが、国語力が非常に低い人がいる。「ご清祥」などの漢字が読めないし、客先でも苦労しているようだ。周囲からは漢字検定の勉強をしろと言われているが、30歳になって始めるのはきつい。なかなか本人も取り組もうとしない。そういう人は営業職では難しいし、その他の職種も多くは難しい。というのも、指示されたり、依頼された事項をきちんと把握する能力が欠けているからである。一人は既に解雇され、故郷に帰ったが、もう一人も解雇寸前になっている。
また知人の話だが、商社では計数感覚が必要なのだそうだ。どの程度のものを言っているのか、わからないが、計画比とか前年比とかそういうものかもしれない。数学ができなくて、その手の資料が期限通りに作れず、2年ほどで辞めていった人が数人いたそうである。そういうことから言えば、中学レベルの数学は必須である。しかし、ほとんどの私大は数学なしで受験することができ、高校時代に数学をほとんど勉強しないという人も少なくない。私が最初に入社した会社でも1年後輩に早大の政経を出た人がいたが、今で言うエクセルの資料をなかなか作れないで苦労していた。何を分子にするか、分母にするかでいつも考え込んでいた。聞いてみると、数学は苦手で何もやっていないということだった。彼の場合、分数のできない大学生ということになるかもしれない。
こういう状況を考えると、数学と国語の試験は行なうべきである。高校入試レベルの出題が適当だろう。その代わり、時間を短くするなど工夫すればよいのである。自社で実施し、その作業をアウトソーシングすることも可能である。作文や論文を採用している企業もあるが、忙しい人事担当が丁寧に読む暇はない。採用担当は繁忙期になると、それこそ自分の席にほとんど付いていない。そういう場合も、基準を決めてアウトソーシングすることをお勧めする。
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