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日本企業における採用選考が稚拙で、ドタバタであることは前回のコラムでも指摘した。とりわけ、採用選考の技術もないのに自信満々であるのはどうかしていると思う。では、どこをどうやって改善していけばよいのか、考えていきたい。
先ず、何よりも大事なのは、面接担当者の偏りが実在しており、同じ基準で人材を採用しようとしているのに、実際のところはそうなっていない現実を確認することである。そのためには、採用面接トレーニングを行なうことが不可欠である。社内の若手社員や学生などを対象にして、いくつかの評価観点からインタビューを行い、どういう結果が得られたかを出し合うのである。
評価観点としては、@課題解決力、Aリーダーシップ(対人影響力)、Bタフさ(バイタリティとストレス耐性)、C対人感受性という4つがよいだろう。これは前回のコラムで因子分析によって得られた項目だが、普遍性を持っている。
次に、面接/インタビューの行い方だが、2つのやり方を試みるとよい。第1に、非構造化インタビューで、簡単に言えば、各自で自由に面接を行うものである。第2に、構造化インタビューで、質問事項を整理したり、一定の枠組みで行うやり方である。2つの面接方式をそれぞれ30分程度実施し、4つの評価観点に関して4段階程度で評価するのがよいだろう。すなわち、A(非常に優れている)、B(十分に優れている)、C(水準程度)、D(水準に及ばない)という4段階である。これ以上は多過ぎてブレが大きくなると思う。
面接の組み合わせだが、二人ないし三人の面接担当者に対して、一人ないし数人の受検者(応募者)という形式がよいだろう。複数で面接を行なうやり方をパネル・インタビューというが、同じ設問を複数の相手に投げかけることができ、効率的であり、面接担当者はそういう技法をきちんと習得するべきだろう。その意味でもやっておく価値はある。また面接担当者を個室に置いて勝手にさせず、複数で面接することで、他の担当者はどんな質問をしているのか、どんな掘り下げ方をしているのか、参考にすることができる。
時期としては、採用業務が一巡した閑散期がよいだろう。次年度に向けてという実施方法ということにもなる。あるいは採用選考がまさしく繁忙期にある時期に、実際の学生(応募者)で行なうという考え方もある。その場合、二次選考などある程度の水準に達した受検者を対象に、複数の担当者が居合わせて実施することになるだろう。
なお、ここで言う担当者は選考に当たる人事担当や採用担当はもちろんだが、人事部の依頼で採用選考を行なっている現場の責任者を含んでいる。人事部門はそういう人も巻き込んで精度の高い選考を行なっていかなくてはならない。現場の管理者がそれなりの判断をしているから、それを尊重するというのは逃げであり、そういう発想では改善が進まない、人事部が指名している営業担当なり技術担当なりが、どういう判断をしているのか、どんなプロセスで選考を決めているのか、お互いに知る必要がある。
ここでダメ押しをしておきたいが、採用担当者は傾聴姿勢があまりないことが多い。一種の職業病かもしれないが、相手の話を遮り、一方的にしゃべってしまう人がどういうわけか多い。その言い分は学生の話を聞くのは重労働で、会社のよいところをアピールするほうが、時間も少ないことだし、効率的と考えている。しかし、そんなことを言いながら、まくし立てているのは、働きやすい職場とか、自由闊達とか、風通しがいいとか、人材育成に熱心、あるいは男女に格差がなく、女性も働きやすいとか、離職率が低いとか・・・いずれもハッタリであり、根拠もないことである。離職率が低いというが、一体なにを根拠に言っているのか、何が分母で、何が分子なのか、さっぱりわからない。そういうことをまくし立てても、学生は意外に冷ややかで、OBなどの情報から人事部以上に、相対的な観点で、離職率や人材育成への熱意を調べていたりする。選考して呼び込もうとしている採用担当が率直に話してくれるなんて思っていないものである。世の採用担当者はもう少し傾聴姿勢を持ち、話をさせることで、自己表現欲求を満足させ、それによってこの会社で頑張ろうと考えるようにすべきだろう。
もし釣り上げるための抗弁なら、内定を出してもよい段階の学生について行なってもよいことだろう。現状、選考と動機付けを一緒にやっていることが問題である。私の知る採用担当者は、これという学生がいると、わずか2-3分で説得にかかるとコメントしていた。説得とは、学生に入社する気にさせる説得工作である。しかし、経歴や簡単な自己アピールだけで、後はいかに会社がいいか、入ったら得するぞ、という話をされても、拍子抜けしてしまう。そういう面接は失敗に終わることが多い。米国の採用選考に関する本(Barman)を読むと、平均して2分以内に、応募者の合否を決めてしまっているそうだ。先述の採用担当者は女性で、容姿を非常に重視していた。しかし、ジャニーズ系の男性社員が入社後にたらい回しになっているのを見て、見誤りの怖さを実感した。
採用選考のトレーニングを行なうと、各自からスコアが出てくる。スコアの刷り合わせも大事だが、どうしてそのように評価をしたのか、じっくりと話し合う必要がある。そのことによって、各自が気付くことが多いからである。トレーニングではアセスメントに経験のあるアセッサーを呼んでおき、コーディネートしてもらうのが効果的であろう。
また構造化インタビューの具体的なやり方だが、SABOモデルが有名である。SはSituation(状況)のことで、どのような状況だったのかということを意味する。AはAssignment(役割)で、すべきこと、ないし期待基準を意味する。BはBehavior(行動)のことで、実際に取った行動のことである。OはOutput(成果)で、行動を取ったことによって得られた具体的な成果や結果のことである。実際の面接では、メモを取りながら、この枠組みで、相手の行動を掘り下げていく。
《質問例 1》
・ あなたは何か、課題解決、問題解決をしたことがありますか?
・ 具体的にはどういう状況だったのですか? S
・ そこでは、どんなことが必要だったのですか? A
・ あなたが具体的に取った行動はどんなものですか? B
・ 友人や知人、仲間(親や教師など)のサポートはありましたか? 補足質問
・ あなた自身が取った行動はどこまでですか? 確認
・ あなたが活躍したことによって得られた成果はどんなものですか? O
以上のような質問を繰り返しながら、SABOを具体化していく。枠組みを明確化することで、評価に足る行動かが見えてくる。例えば、成果はあっても、本人があまり寄与していないなら、それは評価すべき行動とは言えないからだ。また状況を確認していけば、その話の信憑性を知ることもできる。本当に取っていない行動は曖昧で、つかみどころがないものである。
《質問例 2》 対人感受性
・ あなたが経験したことの中で、最も感動したことは何ですか? 「最も」をつけることから、ピーク・イクスプリエンス法という。
・ それはどんな状況でしたか?
・ 感動したのはなぜですか?
・ その経験は今のあなたに何か役立っていますか?
・ 何か影響として残っていることはありますか?
このように質問項目を整理し、自社の基準(選考基準)に即してマニュアル化すべきだろう。しかし、こういうマニュアルは配布したらすぐできるというわけではなく、数日間のトレーニングによって、各自の評価の偏りや問題点を確認し合い、統合化していく必要がある。
ただ、ここで注意しないといけないのは、学生の経験は職務経験ではなく、掘り下げていっても中身が乏しいことも少なくない。日本の現状では大学3年生で採用面接を受けることが多いが、受験以外に大きな人生の山場がなく、これといった苦労もなく、過ごしてきた場合が少なく、そういう経験のない学生が多数派であろう。そのことも踏まえておかないといけない。学生のサークルでの体験談、成功譚、あるいはアルバイトでの苦労話などあまり参考にならないとある程度割り切っておくべきだろう。
また米国では状況設定インタビュー(Situational Interview)をやっていることも多い。これは架空の状況を設定し、面接者と応募者がその状況を共に頭の中でイメージしながら、そこでどういう行動を取っていくかを掘り下げていくやり方である。このインタビュー方式の場合、職務経験がなくても、実施できるところがよいと思われる。
《質問例 3》 課題解決力
・ 次のような状況をイメージして下さい。つまり、あなたが法人営業と個人営業の2つを選択できるとします。
・ その場合、あなたはどちらの営業を選びますか?
・ なぜですか?
・ どのような戦略を考えたり、具体的な行動プランを考えますか?
・ 詳しく聞かせて下さい。
・ それはどうしてですか?
インタビューでは「なぜですか」という質問を繰り返し、学生が理路整然と説明をするかを評価することになる。
《質問例 4》 対人感受性と協働性
・ あなたが職場に配属されたとして、困っている同僚がいたとします。
・ どのような困った状況をイメージしましたか?
・ あなたはその同僚にどのような働きかけを行ないますか?
・ そのような状況に似た経験は実際にありますか?
採用選考技術をリエンジニアリングして適切な採用選考を行なうことが求められている。
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