悠久の歴史、広大な国土、多様な文化を持つ中国――この超大国のすべて語り尽すことなど可能なはずはありません。とはいえ、「中国と中国人がわかる教科書100」を理解しておけば、中国や中国人についての基本をつかみ、また、職場の“中国通”を自負してもいいほどにはなれるはずです。
多くの課題や矛盾を抱えたまま独自の路線を突き進んでいる中国ですが、この国とうまく付き合っていかなければ、日本の経済が成り立たないことは改めて説明するまでもありません。本コースを学習して、ひとりでも多くの方が中国に興味を持ち、曇りのない目で中国と接していただければと思います。
テキストではこんな内容を取り上げています。「中国と中国人がわかる教科書100」から内容を一部抜粋。
●婚活ブームの泣き笑い
 日本でブームの「婚活」という言葉は、そのまま中国でも通用します。おそらく日本の流行語が、いつしか定着したのでしょう。言葉が受け入れられたのは、つまり中国でも「婚活」に情熱を傾ける人が多いからです。
仕事に夢中になるあまり、結婚適齢期を逃してしまった女性は「剰女」と呼ばれています。直訳すると「残りものの女性」。なんとも失礼な表現ですが、「剰女」は才色兼備で経済力もある女性を意味する言葉なので、結局のところ、彼女たちのハートを揺さぶるような魅力的な男性がいない、ということなのかもしれません。
中国の「婚活」においては、女性以上に男性が厳しい状況に置かれています。男女比の構造において、男余り現象が顕著だからです。2011年春時点での出生人口男女比率は女性100人に対し、男性は118.06人です。「一人っ子政策」が、男子偏重という弊害を生んだ結果、このような不均衡が常態化しているのです。
選ばれる側の男性は、持ち家がなければ、間違いなく結婚相手の対象から除外されてしまいます。日本の場合、外見で男性を値踏みする女性が少なくありませんが、中国で何より重要視されるのは経済力です。ですから、世の男性は嫁を迎え入れる前提条件として、家を手に入れるため必死に奮闘しています。
 日本同様、「婚活ビジネス」も花盛りです。各地でお見合いパーティーが開催され、恋人探しのサイトにも多くの男女が登録しています。サイトを見ると彼らの真剣さが伝わってきて、なかなか興味深いものです。
 お見合い番組も百花繚乱です。なかでも、2010年1月に江蘇省のテレビ局が放送を開始した「非誠勿擾」は、中国人なら知らない人はいないほどの高視聴率を誇るお化け番組。女性の出演者は美女揃いなのですが、いかんせん女性側の買い手市場であるため、カップル誕生率は低いようです。
 また、「草食系」の口下手な息子や娘にかわり、両親が相手探しに奔走するケースも珍しくありません。子子孫孫の繁栄を願うのが中国の伝統です。両親としては、自ら「婚活」に動かずにはいられないのでしょう。
●一人っ子政策の曲がり角
1949年、新中国が成立した時点での人口は5億人でした。それが、2011年2月に国家統計局が発表したデータによれば、2010年末で実に13億4000万人まで増えています。
毛沢東時代は「人口が国力を左右する」との考えが一般的でした。そのため、多産が奨励されたのですが、やがて毛沢東時代の終焉とともに、こうした人口第一主義の考え方も破綻を迎えます。そこで1979年、ケ小平が唱導した改革開放と歩を同じくして実施されたのが、世界にも例をみない人口抑制政策「一人っ子政策」でした。本来、人間には出産の自由があるはずです。それにもかかわらず、こうした強権的な政策が罷り通ったのは、一党独裁が続く中国だったから、との側面は否定できないでしょう。
対象は、基本的に漢族です。配偶者のいずれかが漢族以外の少数民族、香港・マカオ居住の漢族、双子以上の多胎などの場合は適用外とされました。
厳しい罰則が設けられたこともあり、ひとまず「一人っ子政策」は効果を上げました。その後、「夫婦ともに一人っ子」の場合は適用外など、第二子出産の条件が緩和されたものの、2011年現在、いまなお政策は継続され、廃止の議論は俎上にのぼっていません。
ただし、人口抑制には成功しましたが、30年以上が経過した今、さまざまな矛盾や弊害が明るみになっています。密かに産んだ子どもは「黒孩子」と呼ばれ、戸籍を取得することができません。正確な統計はありませんが、全国にかなりの数が存在するとみられています。労働力として働かされるにもかかわらず、教育・医療サービスさえ受けられない彼らの将来を案じる声が高まっています。
少子化と高齢化の問題も深刻です。数少ない若者が多くの高齢者を支えなければならないという構造は日本と同じものです。そうしたなかで、少子高齢化を憂慮する広東省政府が2011年夏、中央政府に政策緩和を直訴するという画期的な動きも現れています。
国民は産みたいのに国が産ませてくれない中国、国は産んでほしいのに国民が産んでくれない日本。いずれにせよ人口政策は“難産”であるようです。
●買い物大好き中国人
日本を訪れる中国人観光客の「オトナ買い」が注目を集めています。彼らの買い方は、とにかくケタはずれです。お菓子なら1箱2箱といったケチな話ではなく、ドカンと段ボール単位で買いますし、家電量販店では「炊飯ジャーを20個」などという豪快な大量購入も日常茶飯事です。消費市場が冷え込んでいるなか、日本経済にとっては非常にありがたい上客といえるのですが、「そんなに買ってどうするの!?」と不思議に感じられる人も多いのではないでしょうか。
日本人はよく、旅先で買ったお菓子を職場に1箱持ってきて、その中身を同僚にひとつずつ配ったりしますが、中国人にそのような習慣はありません。お菓子ならば、1人に最低1箱。しかも、家族はもちろん、親類・縁者、同僚、その他大勢、とにかくたくさん配るのが彼らの流儀ですから、数が多くなってしまうのです。中国人の職場を訪れる際、手土産がたった1箱では、ケチな日本人だと思われるので気をつけましょう。
格安中国ツアーに参加すると、ショッピングの時間がやたらに長く、「もっと観光地を回ってほしい」との不満をよく耳にします。しかし、中国人の日本ツアーの場合は逆です。名所巡りよりもショッピングを楽しみにしている人が圧倒的に多く、集合時間を守らずに買い物を続けることもよくあります。札幌在住の知人が、ある中国の人気若手女優を某百貨店に案内した際、閉店時間になっても一向に買い物をやめる気配がなく、彼女のために閉店を遅らせてもらったといいます。「たくさん買ってくれたので、店側も仕方ないなという感じだったけれど」と苦笑していました。
中国人がこれほど日本でのショッピングに夢中になるのは、日本製品に対する絶対的な崇拝があるからです。自国文化への誇りが強い民族なのに、「メイドイン・チャイナ」だけは、まるで信用してしません。また、いかにモノがあふれる時代になったとはいえ、日本の豊富な品揃え、洗練されたパッケージ、超一流のサービスなどは、中国ではお目にかかれないもの。
高級品から日用雑貨まで、ありとあらゆるモノを買っている中国人ですが、彼らが最も“買って”いるのは、「日本」というブランドなのです。
●個人主義が基本の中国人
「自分が担当する仕事が片付き、今夜は友人たちとの飲み会だ。だけど、同僚たちは急ぎの仕事が終わらず四苦八苦している…」――こんなとき、たいていの日本人は、プライベートな予定を犠牲にして、同僚の残業を手伝うでしょう。しかし、これが中国人ならば、周囲の視線など意に介さず、さっさと帰宅してしまうはずです。
彼らのビジネススタイルは完全な個人主義。「自分がやるべきことは終わったのに、なぜ他人の仕事まで手伝わなければならないのか」と主張するに違いありません。もっとも、一方で金銭感覚にはシビアですから、「残業代をはずむ」という話になれば張り切って働いてくれるかもしれません。
ビジネスに限らず、中国人はチームワークを要することが苦手です。スポーツでも、特に強いのは、卓球、体操、水泳、スケートなどの個人競技です。サッカー熱は日本以上に高く、個人の身体能力も高いのに、なかなか成績が上がらないのは、「全国各地から集まる代表チームは、文化や習慣の違いから派閥ができ、チームに団結力が生まれないから」という話を聞いたことがあります。
筆者は以前、湖南省の日本語学校で講師を務めていた経験があるのですが、中学や高校を卒業したばかりの教え子たちに「なぜ日本語を勉強するの」と質問したところ、ほとんどの子から「日本語が話せると、給料のいい会社に就職できるから」「将来、日本へ留学して、日本の企業に勤めたいから」といった答えが返ってきました。貧しい田舎から出てきた彼らにとって、日本語は豊かな暮らしを手に入れるための武器なのでしょう。中国語を学ぶ日本人と日本語を学ぶ中国人を比べると、上達スピードに歴然とした差があるように思います。カネ、就職、出世――切実な目標がある中国人のモチベーションが高いのは当然なのです。
このように、育ってきた土壌が違うのですから、いきなり個人主義を捨てろと命じるのは酷な話です。中国人スタッフを部下に持つ日本人は、個々の実力をフルに発揮できるよう、まずは環境を整えてあげることが相互理解の第一歩ではないでしょうか。頑固な部分がある半面、中国人は学習能力も高いので、いずれチームワークの大切さもきっと自覚してくれるはずです。
●「また今度」は禁物 人付き合いのマナー

 私は仕事柄、たくさんの中国人とお付き合いする機会があるのですが、特に「難しい人たちだ」と感じたことはありません。マスコミが伝えるネガティブなイメージだけで、「中国は嫌い」と決め付ける人がいるのは残念(中国の反日的な人も同様)です。国際交流の基本は「国は国、人は人」。相手の立場を尊重し、損得を抜きにした関係を心がければ、言葉の壁でさえ克服できるはずです。
 とはいえ、日本と中国はまったく異なる文化を持った国です。悪気のない言動であっても、無意識のうちに相手を傷付け、不快感を与えてしまうこともあります。では、どんな点に留意すればよいのでしょうか。
 まず、相手が嫌がる可能性が高い話題は、絶対に避けなければなりません。たとえ、お酒の席であっても、共産党、人権、少数民族、尖閣諸島といった敏感なテーマはご法度です。もし政府に反対的な意見を持っている人だとしても、首相や政府の悪口を言いたい放題の日本とは違い、政府批判を公衆の面前で口に出すのが憚られる国という事情も理解してください。
尖閣諸島をめぐる日中間対立が最も激しかった時期、日本で中国人のグループと会食したことがありました。全員、かなり酔いが回ったにもかかわらず、誰ひとり過去の歴史問題や領土問題を切り出すことなく、日本政府に対する批判の言葉も聞かれなかったのは、彼らなりの配慮だったのでしょう。良識ある中国人は、やはり日本人の感情を害するような話題には触れないものです。
 日本人の場合、かなり親しい間柄でも、相手の収入を聞くようなデリカシーのない人間はまずいません。ところが、中国人は平気で「月収はいくら」などと質問します。もちろん、馬鹿正直に答える必要はなく、そんなときは多すぎず少なすぎず、適当な金額を言っておけばOKです。大切なのは、不愉快な表情を浮かべないことです。これとて、単に日中の給与水準の差に興味があるだけで、悪気はないのです。
 最後に、言った本人が意外と自覚していないのが「また今度」「近いうちにぜひ」といった類の社交辞令です。日本流の曖昧な機微は通じるはずもなく、その後、音沙汰がないと「ウソつきだ」と思われかねません。
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